お笑い芸人の投資スキャンダルで話題に上る「NFT」とは?
お笑い芸人TKOの木本武宏の、所属芸能事務所との契約終了が報じられてからから10日(執筆時)ほどがたつ。これを伝える一連の記事などを見ると、契約終了の背後には5億円を超える「投資トラブル」があるとされていた。
8月1日には木本が書面にて声明を出し、騒動について謝罪すると共に、完全にその全貌を明らかにしたわけではないものの、確かに投資トラブルは存在していることを認めた。一方、その声明の中で関係を明確に否定したものの、憶測の飛び交う中で思わぬ注目をあびたのが「仮想通貨」と、ブロックチェーン技術を使ったNFTアプリ 『STEPN』だった。
この『STEPN』は、アプリ内でスニーカーのイラストのNFTを購入し、指定されたスニーカーを履いて実際に歩くことで報酬として仮想通貨を得られるもの。そしてこのアプリは、この5月に中国での仮想通貨に対する締め付けが厳しくなったことで中国でのプレーが禁止され、それによってゲーム内の仮想通貨の価値が10分の1以下に暴落したという。
公共料金からオンラインカジノまで…用途の広い仮想通貨
まず気になるのは、これら一連の報道の中で『STEPN』が「仮想通貨アプリ」と表現されているのを時折見かけたことだった。公共料金の支払いから、ビットコインなどでプレイできるオンラインカジノまで、今や仮想通貨は非常に幅広い用途で実用化されているが、それが実際にどういうものなのかが理解されないまま、名前だけが一人歩きしているように感じられないわけでもない。
確かにこの『STEPN』は、報酬として仮想通貨が手に入ることもあり、仮想通貨と密接に結びついているのは確かだ。しかしその本質的なところは仮想通貨ではなく、それと同じブロックチェーンの技術を使っていながら、別物であるNFT(非代替性トークン)だ。
NFTといえばブロックチェーンを用い、デジタルアート作品の唯一性を証明できるものとして、近年NFTアートの取引所などが相次いで開設されるなど、その市場はにわかに活気付いていたところだ。
果たして仮想通貨やNFTは悪者なのか?
では今回の一連の報道の中で、仮想通貨やNFTといったキーワードが、どこか社会的通念に反するもの、そして「それらに夢中になったから」失敗したのだ、とも言わんばかりの報道や、コメントが見られるのはなぜだろうか。
筆者が推測する大きな理由の一つは、「仮想」という名称の通り、それらが実物を伴わないものであることへの恐れだ。「通貨」でありながら実際の札や硬貨を持たない仮想通貨、それに作品への所有権を証明できるというウリを持ちながら、部屋に飾ることの出来る物理的なアート作品が存在しないNFTは、その概念を理解するのがどこか難しい存在であり、そんな実体のないものに対してお金を払うことに怪しさや怖さを感じる人も多いかもしれない。
また仮想通貨もNFTによるアート作品も、投資対象としてはまだまだ新しいもので、その価値の変動の振れ幅は非常に大きい。それまで価値が鰻登りになっていたものが、あることがきっかけで一気に地に落ちることも決して珍しいものではない。けれど「新しいもの」の価値が安定しないのは仮想通貨やNFTだけの問題ではなく、例えばスタートアップなどの新しいビジネスへの投資もそれは同様で、ビジネスが失敗して投資者が大損をすることは稀なことではない。
NFT作品の将来は?
日本人はリスクを極端に避ける国民性と言われる。もちろんその国民性ゆえに得られている恩恵や国の良さ、特にインフラや安全性などはその際たるものであるが、一方で、一度失敗した時に周りからの下される評価には非常に厳しいものがある。
最初に書いた「投資トラブル」に関して、NFTや仮想通貨という訳のわからないのものが起こした価値の暴落が一番の元凶のように書かれている報道は多かった。けれども冷静に考えると、投資という好意の持つリスクへの理解の甘さ、あるいは資金運用を任せていた人物の素性をきちんと評価できていなかったことが問題なのであり、NFTと仮想通貨とは全く別問題のはずだ。
「メタバース」という言葉をここ最近でよく耳にするようになったが、デジタルの世界の奥行きが今以上に広がっていく中、この先NFTにどのような未来が見えると言えるだろうか?
NFT作品は、やはりブロックチェーン技術によって、これまで簡単に複製されてきたデジタルアートの唯一性が担保されていることが非常に重要な点であるが、それに加えて、これまでアート作品の売り上げの少なくない割合が、ギャラリーやオークション会社の取り分として引かれて来たビジネスのモデルから、オーナーが直接作品を売る方式へとシフトが可能になることも大きい。さらには例えばある作品が最初のオーナーから転売された際にも、その利益がオーナーだけでなく製作者にも渡るようにするなど、製作者に継続的に利益をもたらすようなシステムが可能となっている。これらによってアーティスト側にとっての利点は非常に大きなものとなるはずだ。
歴史あるオークションハウスも認めるNFT作品
作品の価値が安定しないのは上にも述べた通りで、減る時には大きく落ちるが、増える時もまた大きく増える。有名なところでは2021年3月にクリスティーズのオークションにて、デジタルアーティストBeepleによるNFT作品『The First 5,000 Days(最初の5000日)』が、6930万ドル(当時の為替で約75億3,600万円)に入札された。今後も非常に高額な作品や、一方で値段の大きく下がる作品も生まれてくるであろうが、注目すべきはこのオークションを行ったのが1766年に設立された、二大オークションハウスの一つであるということだ。これは業界で長い歴史をもつ会社が、この新しい技術を認めてつつあることを意味する。
従来の概念を覆すような新しい技術が、広く社会に認めてもらうまでの道は険しい。その価値が安定するまでに、大小さまざまは波が起こるものである。だがこうしてその分野で一定の権威をもつ組織がその存在を認めることによって、NFTの技術が、日本でも広く一般的になる日は、そう遠くないかもしれない。